何度も夢を見る
つらつらと
何度も書き直されていく
幼き自分が母を呼ぶ
自分の存在を忘れて欲しく無くて
でも、母は来なかった。
母は醜き自分を嫌った
母は綺麗な弟を溺愛した。
それでも、優しい母の姿を追いかけていた
「夢か…」
いつもにまして静かな目覚め
ゆっくりと身を起こすとその場にうずくまった。
「不安なんだな…」
現【うつつ】
「お早う御座います、政宗様」
「おう」
軽く会釈をした小十郎に返事を返す。
━…俺の右目を奪った男。
小さい頃の自分にはどれ程恐怖だったか。
「私の顔に何か?」
見つめている事に気がついた小十郎は顔に手を触れる
「いや…」
今日の自分は何処か変だ
何故か昔の事ばかり思い出す。
それも…隠している部分ばかり…
「今日は皆さんが参られますね。」
「ああ…そうだったな」
いつもは嬉しい筈なのに
今回は不安な気がした。
「政宗様、佐助殿と幸村殿が参られましたが…」
何かあったのか、小十郎の言葉は尻切れが悪い。
「どうした」
「幸村殿の様子が優れないようです。」
これが、今日最初の災厄だった
「幸村!!」
急いで来た門先には佐助に身体を預け、苦しそうに肩で息をする幸村の姿があった。
「あ、ごめんねこんなんで」
「それは良いが、体調は?」
辛そうな幸村の代わりに佐助が喋る。
「実は道中途中で突然熱が出ちゃって。甲斐に戻るよりもこっち来た方が近かったか
ら。」
「そうか…ご苦労だったな。取り合えず中で休ませてやれ」
「うん。」
そう言い終わると、佐助と幸村は女中に連れられ中へと入っていった。
「…。」
そしてまだ来ぬもう一人の友を気に掛ける。
「まだ参りませんね…慶次殿。いつもは一番最初にいらっしゃるのに」
「他用でもあったのだろ…」
そう決めつけ、小十郎と共に中へと戻った。
客室の障子を開けると、そこには床に伏せ眠っている幸村と
その看病をしている佐助の姿があった。
「慶次は?」
「まだ来てねぇよ。」
「そっか。」
「阿呆面だな。」
「ん、そうだね。間抜け面とも言うけど。」
自分で言って自分で笑う。
いつもこの佐助と言う人間が忍なのか不思議に思う。
部屋に入り、佐助の隣に座るとそのまま彼の肩に頭を預ける。
笑ったのだろう、小さく肩が揺れた
「どうしたの?甘えちゃって。」
「不安…だらけだ。」
突拍子もなく呟いた言葉に驚いたりせず、佐助は言葉を紡いだ。
「仕方ないよ、ほとんどの人は闇の中にいる様なものだから。」
佐助はいつもと変わらぬ様子で絞った手ぬぐいを幸村の額に乗せてやる。
「ゆっきーのようにお天道様みたいに明るい人なんてそうはいない。小十郎さんなん
て
伊達ちゃんの為に、自ら進んで大きな闇を背負ったんだから。」
「わかってるよ…」
小十郎が右目を取ったのは。
苦しみから解放させたかったから
醜くとも生きてて欲しかったから
政宗様はどんな姿でも凛々しいお方です。
子供心に響いた言葉
恐怖にも勝って、母にも勝って暖かかった言葉
そして、彼が自分を一番最初に抱き留めてくれたのだ。
どんなに罵声を浴びせられても
彼は決して自分の側から離れないでいてくれたのだ。
「小十郎は大切だよ…俺にとっては…でもそれはそれなんだよ。」
手のひらに力を入れて拳を作る。
「今日という日が不安なんだ…まだ慶次も来てねぇ。」
「確かに…そうだよねぇ…どうしたんだろ。」
廊下が、突然慌ただしくなった。
足音がいつもより多いのだ。
「おいおい、どうしたんだ?」
障子を開けて通りかかった女中に話しかける。
「あっ…政宗様!!」
振り返った女中の着物には普通ではあり得ないはずの血がついていた。
「その血、どうした…?」
「こ、これは…」
「どうしたって聞いてんだよ!!」
「伊達ちゃん!その子、怖がってる。」
佐助の制止でようやく我に戻った。
怯えた女中を放し、今度は落ち着いて話を聞く。
「怒鳴って悪かった…それで?」
「黙ってろと言われたのですが…慶次様がお怪我をなさったまま此処にお出でになっ
たので手当を致しました。」
「慶次が!?」
再びの災い、何故こうも続くのか。
「伊達ちゃん!」
佐助の声も気にせず無我夢中で廊下を駆け出していた
「おー、ちび助。よっ!」
慶次の顔を見たら安心して思わず飛び付いていた
「慶次っ…!!」
「どうした?ん?」
大きくてしっかりとした慶次の手が髪を撫でてくれる。
「良かった…」
「あんまり引っ付くなって。」
「だって、慶次怪我したって。そうだ!怪我どこだ!?」
「ん?大丈夫だから心配すんなって」
着物を捲ると真新しい包帯が胸に巻かれていた
「何で黙っとこうなんて思ったんだよ…」
「だってよぉ…」
いきなり大きな両手で顔を包まれた。
「ほれ、お前泣きそうな顔してる。」
どんな顔をしていたのか。
慶次は笑っていた。
「そう不安になるな。誰もおいてったりしやせんよ」
「そうだよな…」
何を一人で不安になっていたのか。
馬鹿げた不安だ
「なんかどうでもよくなってきた…」
「そうそう、あんまり考えると潰れちまうよ。」
まさに潰れそうになっていた自分を慶次はそっと抱え込んでくれた。
「有難うな…」
「気にすんなって」
夢が現実になったとしても
幻は幻のまま…