俺がまだ小さいころの話で。
まだあの人はいて。
まだあの子は居なくて。
大切な人は病気だった頃のこと。


向日葵


「お館様、朝ですよ」
外では雪積もる冬。
肌寒さを感じながら薄暗い部屋の障子を開け。
日の光が一瞬で部屋の中を照らす。
すると、布団に潜っている人物は身じろぎをした。
「調子の方…どうですか?」
「割と良好だと思うぞ。」
身を起こした彼のはだけた寝間着を直してやる。
ちらちらと見える怨念や呪いを受けて出来た痣が何とも痛ましい。
ふと本人の顔を見上げると、外を見ていた。
今度はそっちの方を見ると雪が積もっている。


なのに向日葵が一輪だけ咲いていた。



白い雪の中に存在するハッキリとした黄色の向日葵
「あの向日葵を見ていると…勇気をもらう」
お館様の顔が少しほころぶ。
「どんなに過酷でも、生きろと言われているようだ…」
細くなった指を見つめ、その手で拳を作る。
それを胸にお館様はあてがう。
「お前の仕業か?昌幸。」
すっと開いた眼を、ぼんやりと障子に写る影に移す
その影がゆっくりと移動し始める。
「はは…此処にいることがばれてしまいましたか。」
「昌幸様…」
落ち着いた物腰で部屋の中に入るとお館様の前に座る。
「左様です。私があの向日葵を植えました。」
昌幸様はお館様を見つめ言葉を続ける。
「ですが、こんな気候では一日も持たぬと思っておりましたが、まさかあんなにも凛と咲くとは考えてもいませんでしたよ。」
「だろうなぁ…」
お館様も昌幸様も、優しく笑ってた。
俺には…向日葵も一緒に笑ってる気がした。